LALALA


夏子は感激してくれたけど、本当は自分のためでもあった。

日曜日に、博史が荷物を取りに来る。

結婚式でたぶん、私は一日中家にいないから、ちょうどいいと思った。
メールをしたら、了解、という素っ気ない返事が返ってきた。二人の誕生日を組み合わせたアドレスは変わってなかったけど、きっと、時間の問題だろう。

夏子と別れ、部屋に戻った私は、ゆっくりとした緩慢なペースで部屋中を見渡した。
ここから一人分の荷物がなくなったら、恐らく広く感じ、物理的にはすっきりするだろう。

けれども、面影は簡単には消えない。目を瞑れば今でも浮かんでくる。テレビを見ながらソファーで寛いで、缶ビールを飲んでる博史、私が落っことしたビーズを誤って踏んでしまって、不機嫌そうに顔をしかめる博史。

そんな亡霊と一日中、朝か夜かもつかない不規則な生活をしていたら、さすがに頭と心が病んでしまうんじゃないかと思った。

博史が使ってたデスク。
引き出しに挟まった、旅行雑誌。

それを手に取り、ペラペラ捲ってみたら、折り目がついてるページがあった。


「…私と、一緒に行くつもりじゃなかったんだね」


今更だけど。

朝、きちんと目覚める。人と触れ合って体を動かして働いて、帰宅してからアクセサリーを作る、根詰めないで。
マイペースに。
それが、今の私の心と体にとって、一番いい気がした。


窓を開け、昨日まで降り続けた雨のせいで湿っていた空気を、外に逃がした。
下の方から、鼻歌が聞こえてくる。音程を外して、調子が狂った酔っ払いみたいに上機嫌なメロディー。


『まさか。親父んとこにね。俺、孝行息子だから売り上げに貢献してきてやったぜ』


ふっと吹き出して、明日からに備えて今日のうちに一つでも多くアクセサリーを作るべく、作業に取り掛かった。

環境は大きく変わろうとしているのに、変わらないものもある。
日常だ。今は、それが鼻歌だ。鼻歌と、アクセサリー。

それが私の、今の救い。
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