白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように
 会社が用意してくれたこのホテルも最近出来たばかりらしい。すべてに真新しさが感じられる。ただ、8月の本当の始めのこの時は平日であることも合わさってガラガラの状態だった。今ここを利用しているのは、同じ様にヘルプに来ている人しかいない様だ。

 その証拠に部屋は半分以上空室だった。

 シャワーを浴び終え、冷房の効いた部屋で煙草に火を付け、来る途中買ってきた弁当とビールを広げた。
 吸い終わり、先にビールを一口含み弁当をほお張った。缶ビール一本を飲み終わるころにはもう、眠気がさしていた。

 SNSで沙織さんに、

 「***亜咲達哉 今日はもうくたくた、ごめんもう休むから。

 お休み沙織。

 ***」

 と書いて送ってやった。何気なく疲れた体で何気なく「沙織」と。

 そのまま意識を失うように眠りについた。

 次の日、シャワーを浴びてスマホを見ると沙織さんからの返信に気が付いた。

 「***今村沙織 お仕事本当にご苦労様。大変だね、頑張って。

 それと、ようやく沙織って呼んでくれたね。待ってたよ(感謝涙の絵文字)ありがとう。私も達哉って呼ぶからいいでしょ。ね、達哉さん。いや達哉だ。美野里さんには負けたくない。大好きな達哉へ。

 ***」

 その返信を見て体全体が熱くなった。

 部屋から出る前に

 「***亜咲達哉 いいよ。ありがとう。

 ***」

 と送って店に向かった。途中、駅の立ち食い蕎麦屋で蕎麦とカップみそ汁を啜って店に入った。

 ビーチは平日でもその賑わいが衰えることはなかった。もちろん店も同じだ。昨日よりは少し勝手がわかるようになり動きやすいが忙しいことには変わりはない。そんな昼のピークタイムが抜けた、アイドルタイムの時休憩に入っていた僕は目を疑った。

 駐車場に止まったワゴン車から良く見慣れた人たちが降りて来たからだ。そして、その中に沙織の姿があった。
 僕は驚いて駆け足で駐車場へ沙織のもとへ駆け寄った。

 「沙織」僕が叫んだ声に沙織が気が付き、達哉と手を振って返してきた。


 「おお、もう名前で呼び合ってるぜ」


 その声の方を見ると宮村が運転席から降り立った。そして助手席から愛奈ちゃんが、後ろの席からナッキが、まるで狐に騙されている様だった。そして遅れる様に一台の車が入ってきた。
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