白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように
 「あ、いや、綺麗だなぁ」ぼっそり漏らした言葉を彼女は聞き逃さなかった。

 「ありがとう。亜咲君に行ってもらうと嬉しいよ」 

 そう言って彼女はオーダーを出した。僕はそれを受け厨房へオーダーを告げに言った。そして忙しく動き廻っている内に恵梨佳さんの姿はその席から消えていた。

 今日は週の中日。ディナーの時間になるとさすがに客の数は少なかった。それに今日でヘルプメンバーが入れ替わる。明日からは新たなヘルプメンバーが投入される。

そして9時閉店後ささやかだが、今まで居たヘルプメンバーの慰労会がこのオープンテラスで行われる。これもこの会社の意向だと店長が教えてくれた。

 もちろん、沙織もナッキも出席してほしいと店長から言われていた。そして一緒に来ている宮村と愛奈ちゃんも特別参加が許された。

 慰労会が始まると各々用意された料理を目の前にして、支配人から挨拶とヘルプメンバーへの感謝の言葉が話された。

 サービスをしてくれたのはここにいるメンバーだった。

 乾杯。僕らはみんな立ち上がりジョッキを鳴らし、ビールを流しいれた。その後はみんな一緒にこの店で、あの忙しさを乗り越えた仲間同士盛り上がりを見せた。

 そしてサプライズが用意されていた。

 恵梨佳さんが僕と沙織、ナッキを前に呼んだ。そしてマイクを片手に

 「みなさぁん。こちらを注目」と言って僕ら三人に注目を浴びさせた。

 「さて、みなさんもご存じの通り、昨日からヘルプして戴いた、 美津那那月さんと今村沙織さん。お二人とも急なお願いを快く引き受けていただき、そして素晴らしいサービスをお客様に提供して頂きました。改めて拍手を」

皆から拍手が沸く。


 「そして、何を隠そう今村沙織さんと、こちらのイケメンパーサー亜咲達哉さんはなんと恋人同士なのです」会場がどよめく。「知ってたぞぁ」なんて声も飛んできた。僕と沙織二人とも物凄く照れていた。恵梨佳さんは続けて


 「しかも、個人情報だけど暴露しちゃいます。なんとこちらの亜咲くんお誕生日今日が誕生日なんです。そしてそして、なんと今村沙織さんも今日が誕生日だったんです。なんと同じ日が誕生日の恋人同士だったったんです」


きゃぁー素敵。と女の子から叫ばれ、わーとみんなからまた拍手が沸いた。

 そして僕は驚いていた。なんと沙織と同じ誕生日だったことを。
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