雪の降る日に、願いを消して
☆☆☆

前田先輩と別れたあたしたちは、帰り道をゆっくりと歩いていた。


駿は幼馴染の可憐さんと何か約束をしていた。


その約束はなにかわからない。


可憐さんは引っ越してしまい、どこにいるかもわからない。


「小学校の途中で引っ越したってことは、約束はそれよりも前にかわされていたんだよね?」


紗英が考えながらそう言った。


「きっと、そういう事になるよね」


あたしは頷く。


「小学校時代の約束なんて、覚えてる?」


そう聞かれて、あたしは首を傾げた。


自分の小学生時代を振り返ってみても、誰とどんな約束をしたのか思い出せない。


転校してしまった子との約束なんて、余計に忘れてしまっている。


「覚えてないよな。それなのに、萌ちゃんは今でも可憐って子の事を引きずってる」


聡樹がしかめっ面でそう言った。


「萌ちゃんにとって可憐さんは特別だったのかな? だとしても、駿が小学生の頃萌ちゃんは幼稚園や保育園だよね? そんな子が可憐さんと駿との約束をずっと覚えていて、中学生になった今でも信じてるなんて、変だよね?」


紗英が時々混乱しながらもそう言った。


紗英の言いたいことはよくわかる。


そんな昔の事を覚えていて今でも約束を守り続けているなんて、普通は考えられない。


そういったものはいつの間にか記憶の奥底にしまわれて、時々思い出せばいい思いでだったと感じるようなものなのだ。
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