フォーチュン
「あの宴の頃、私は高熱を出して寝込んでおりました。とても動ける状態ではなく、ですが宴に出席をしないことは失礼に当たると思い、苦肉の策で妹のアンジェリークに、その・・・私の代理になってもらって・・・」
「アナ!」

・・・「代理」か。なるほど。
「アナスタシア皇女」はさほど長居をしなかったと、フレデリックは言っていた。
そして俺自身も。
だから宴のときのレディのことは、誰一人記憶にない。
というより、皆同じ姿をしている、程度にしか留めていなかった。

それは父上と母上も同じだろう。
俺が夏至祭でアンに出会ったこと、そして「裏づけ調査」の結果、「アナスタシア皇女がアンだ」と俺が断言したから、父上と母上は、アナスタシア皇女は俺同様、退屈な宴を抜け出して活気ある街に繰り出した、くらいにしか考えていなかったに違いない。
ゆえに最初から「アンジェリーク皇女」のことはノーマークだったというわけか。

Anastathya(アナスタシア)は「Ana(アナ)」が呼び名。
そして「An(アン)」という呼び名は、Angelique(アンジェリーク)。

やられた。

頭を下げて一気にまくし立てたアナスタシアは、低く轟く豪快な笑い声が頭上から聞こえて、おずおずと頭を上げた。
すると、思ったとおり、ユーリスが声を上げて笑っている姿を見た。
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