フォーチュン
アンジェリークは咄嗟に身をもっと縮め、「音を立てない」と自分に言い聞かせていた。

・・・ああ、私の心臓の鼓動が、はっきり聞こえる。
まさか門番にまで聞こえてないわよね?

『この時間帯だと、検閲は緩いほうだから』
『だが音を立てないこと、荷箱の影に身を潜めていることは鉄則だ』と、出発前に夫婦に念を押されたことが、アンジェリークの脳裏によみがえる。

そのとき荷台の幕が上がるパッという音が聞こえた。

アンジェリークは、これ以上できないという程ますます身を縮めるように自分を丸めると、自分で自分を抱きかかえた。
無意識に呼吸が細くなる。

早く・・・早く!

すぐにまた幕が下ろされて荷台が暗闇に戻ったとき、アンジェリークはホゥと安堵の息をついた。

アンジェリークの全身が脱力する。
手のひらに滲む汗をズボンにそっと擦りつけたとき、何事もなかったかのように、荷馬車がまた動き始めた。

・・・まさか、こんな形で母国を離れることになるなんて。
まさか私が母国を捨てるなんて・・・。
母様、父様・・・みんな、ごめんなさい。
ごめんなさい。

アンジェリークは、また膝を抱えて座り直すと、声を殺して泣いた。
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