フォーチュン
「・・・へえ。ドラークの夏至祭でねぇ」
「ええ。酔っ払いに絡まれていたところを、偶然通りかかったコンラッドが助けてくれたの」
「アンにとってはヒーローね」
「本当に」

夢見心地な顔と口調でそう言ったアンジェリークに、「分かるわ」とハンナは言うと、夫のヤンを愛しげな眼差しで見た。
そしてヤンは、ハンナの愛情をしかと受け止めると、同じく愛しげな眼差しを妻に返す。

「じゃあアンは、コンラッドって人に会いに行くために、国を出たんだ」
「ええ」
「身分証を持たずに出なければならない理由が、そこにあるのか?」
「それは・・・」

私がバルドーの皇女で、他国の王子と無理矢理結婚させられそうになったから逃げ出した、なんて、誰にも言えない!

口ごもるアンジェリークに、「詳しい事情は言いたかったら言ってね」と、ハンナが助け舟を出した。
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