フォーチュン
しかし、ユーリスに睨まれている当の愚者は、頭を下げている姿勢を崩すこともせず、ユーリスを恐れることもなく、ただその場に佇んでいた。

「恐れながら、ユーリス様。これはワタクシの意志の言葉ではございませぬ」
「あぁそうだったな。これは万物の意志やアンの意志が、タロットを通して語りかけてくるのだったな」と不自然に明るい声と笑顔で言ったユーリスは、次の瞬間、また愚者を睨みつけていた。

「だがおまえは今、俺の想い人を侮辱するような暴言を吐いたという自覚はしているのか」

低く轟くユーリスの声は、まるで地をも動かすほどの凄みがあった。
自分が睨まれたわけでもないのに、官吏の数人が思わず後ずさる。
中には、ポケットから白いハンカチを出して、額に浮かぶ冷や汗をそっと拭う者もいた。
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