フォーチュン
ドラーク王国・ユーリス王子の訪問は、一応非公式なので、サロンと呼ばれる小さな部屋には、女帝・ヴィヴィアーヌと彼女の夫であるアントーノフ、それとユーリスの3人しかいない。
小豆色の皮ソファにどっしりと腰かけているユーリスに、テーブル越しの向かいに座っているヴィヴィアーヌが飲み物を勧めた。

「コーヒーになさいますか?それとも紅茶がよろしいかしら」
「できたらレモン水をお願いしたい」
「あら。貴方にとっては初めてのバルドー国訪問のために、わざわざ勉強をしてきたのですか?」
「いえ。レモン水がバルドー国では一般的な飲み水であることは、アナスタシア皇女に教わりました」

「アナスタシア皇女」が話に出てきたことで、本題に近づいたと3人は自覚をしたせいか、周囲を取り巻く空気に、少し緊張感が加わる。
「あらそう」とつぶやくヴィヴィアーヌの隣では、アントーノフがピッチャーからレモン水をグラスに注いでいる。
そして「どうぞ」と言いながら、レモン水が入った透明なグラスを、トンとテーブルに置いた。

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