彼女が指輪をはずすとき
『もちろん朝日先輩のことを尊敬しています』

これが私の出した答えだった。
その言葉を聞いた彼は、少し間を置いてから私に笑顔を向けた。

『…そっか。ありがとう』

彼の言葉、表情を見て私は後悔した。
彼は言葉を詰まらせ、いつもの私が好きな笑顔とは違う顔を見せた。

もしかして、先輩は本当に私のこと…?

『じゃあ先に席に戻るね』

彼はソファーから立ち上がり私に手を振ると、後ろを向き歩き始める。

『あっ…!』

私は立ち上がり、歩き去る彼の後ろ姿に手を伸ばす。

言わなきゃ。
"先輩のこと、出会ったときから好きでした"って。
言わなきゃ後悔する。
わかっているはずなのに、言葉が喉にひっかかって出てこない。
先輩、行かないで。

見慣れた大好きな背中が白い壁に遮られて見えなくなったとき、私の目から一筋の雫がこぼれて頬を伝う。

きっと誤解された。
先輩を恋愛対象として好きじゃないって思われた。
何で言えなかったんだろう。

私は両手で左胸をぐっとおさえる。
胸が苦しい。

後悔の念が私を襲った。

こんなにも伝えることって、難しかったっけ。
たった4文字の"好きです"は苦しく、そして怖い言葉だったのだろうか。

ちゃんと伝えられていたら、今頃どうなっていただろう。

この旅行が終わったあと、私と彼はぎこちなくなって話すことも少なくなった。
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