意地悪な片思い
白いひげのおじさん
『一緒に飲めて楽しかったです。』
ただそれだけの連絡でも、
その人に送るのは変に緊張してしまう。
変に時間を要してしまう。
二人で飲んで帰ってから、倒れるように寝て。土曜日もあまり家を出ずに記憶に残らないような一日を過ごして、日曜日、やっと私はお礼の連絡を彼にする気になった。
緑と白を基調とした花柄のカーテンを開けると、まぶしいほどの温かい光が部屋の中に入ってきて一気に室内が明るく変化した。
絶好の布団干し日和。
昨日はちょっと曇ってたってのに。
だけどそんな日の光が差し込んでいるとはいえ、冬真っ盛り……暖房には心もとなさすぎる。
コタツのスイッチをぽちっとすぐに入れた。
着替える用事が特に思いつかない今日は、昨日に引き続き横に出しているストーブはお休みである。
ところがこのコタツもなかなか年季が入っているので、弱にしていないとやけどしそうになってしまうという欠点持ちだ。
こたつ布団は昨年買い換えたばかりのご新規さんなのに随分の差である。
「こたつ布団はこの間干したから、今日はいいか。」
それに目配せしながら温まるのを待つ間に、私は掛け布団と毛布、敷布団などをベランダに引っ張った。
途中ベランダの下に布団の端っこがついてしまったりしたが、まあそんなことは気にしない。
パンパンと払っておけば大抵大丈夫。
「さてさて…」
すっかり温まったこたつへと入り、ベランダ口があるほうを頭にして私はごろんと寝転がると、携帯を手に持ってその人のトーク画面を開いた。
熟考タイムだ。
うーんと左右に何度か振り子のように体を揺らして、
『連絡遅れてごめんなさい、金曜日は本当にありがとうございました。
無事帰り着かれましたか?』
10分ほど悩んで、私はえいっと送った。
気合いを入れながら送信ボタンを押したのに、呆気なく画面に表示されてしまう文字に私はいつも拍子抜けしてしまう。携帯も機械なわけだし、そりゃ送信ボタンを押す人間の気持ちなんてわかってくれないだろうけどさ。
私は送った画面をしばらく観察して、ほっと一息つくと、片付いたテーブルの上にそれを置いて、髪を後ろに結いながら朝食の用意を始めた。