意地悪な片思い

「ばかって言った?」

 一声目はそれだった。
ギクッと心に雷が走る。

「そんなこと言ってませんよ!」
 平然を装って口から出た言葉は実に頼りない一言だった。

「そういうことにしといてあげるよ。」
 案の定、電話口の向こうで笑う声が聞こえる。

「何なんですか。急に電話してきたりして。」
 私は話を変えることにした。言ってないですよって彼に詰め寄ったとしても、どうやっても勝てる見込みがしないから。

第一、ばかって言ったんだ、しかもばかの語尾に「やろ」までついてる。
「野郎」じゃないからまだ罪は軽いけど、話を変えるのがここでは一番都合がいい。

「…速水さん?」

「だめだった?」
 急にそう、ささやくように彼は口を開いた。

「だ、めじゃないけど。」
 追随した私に不意打ちでそんなことを言ってくるもんだから、私の声はとぎれとぎれで尻すぼみ。

電話だから、彼と対面して話しているときより過剰に相手に反応しちゃう。耳元でささやかれてるような錯覚に陥っちゃう。

「それで何の用事ですか。速水さん。」
 取り繕うように私はまた質問。
だけどさっきと似たようなことを聞いてしまったあたり、動揺してるのは丸わかりだ。

ぷっと彼は笑うと、

「掃除終わらせたし、時間空いたから暇つぶしになってくれないかなーって。」
 からかうような口調で、それだけだよと。

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