意地悪な片思い

 私の席の明かりがポツン。
もう一つ隣の部署の明かりがポツン。

すっかり夜のオフィス。
同じ部署内で残業をしていた人もいたはずなのに、その人も帰った様でその姿はない。

「…木野さんはまだ帰ってないんだ。」
 速水さんの席の明かりは消えていた。

早く帰り支度しよう、もう今日はいろいろ疲れた。
ぐしゃぐしゃと私は後ろ髪をかいた。


私のデスクの上にはボールペンとカバンと、あれ?コーヒー?
見覚えのない飲み物。社内の自動販売機でも見かけない、牛のロゴが入った缶。


もしかして長嶋さんが気遣ってくれたのかな…。
わざわざ買って戻ってきてくれたのかもしれない。いない長嶋さんのデスクの方を見ながらキュポンとそれを開けた。

「あ、いい匂い。」
 ブラックではないのに、私がいつも飲むそれと比べると少し匂いが濃い。

でも

ごくっ。
私の喉が鳴った。


「…甘い。」
 体の中がふわっと温かくなった。

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