意地悪な片思い

インゲンの動揺


 厳しかった冬は、寒ささえも忘れさせるような忙しさでいつの間にか越えていた。

まだまだ風は冷たいが、太陽の日の光は日が進んでいくにつれて心地よさを増していく。桜の蕾はもう少しで花開くんではなかろうか。

「よいしょっと。」
 私は雨宮さんが作ってくれた、模型のお手本であるお家をテーブルの中心へ置いた。

廃材もその周りに丁寧に整えておいてある。といってもサイズがバラバラなんてことはなく、家の底、壁、屋根、みたいにあらかじめパーツは大体的にできてるんだ。

そびらが指に刺さってしまわないように、やすりもかけてある。

 私も仕事の合間にその加工作業に参加させていただいたが、なんとも地味な作業。下の階の人たちはうんざりしてるんじゃないかって申し訳ない気も湧いてきたけど

「楽しんでもらえたらいいですね。」
 そう雨宮さんは私に言ってくださった。

あ、あと内川くんも「俺もお家作ってみたいなー。」って言ってくれたんだっけ。
内川くんもありがとう。


 幕を開ける今日――この土日は簡単な屋台、子供たちに人気のキャラクターなども呼んである。

勝負の初日がどう転ぶか分からないが、何が起こってもうまく対応するしかない。
長嶋さんもいない。

つまり事態の好転は私、次第。

「市田さん。いよいよですね。」

「…はい。」
 私はぎゅっと宣伝の広告チラシを握りしめた。

「大丈夫ですよ。絶対大丈夫。」
 そんな私の手を見た雨宮さんが私に言葉を落とす。

「失敗したらばかにされちゃいますからね。」
 私は藍色のコスチュームに身をまとってる、人気キャラクターに目をやった。

「長嶋さんそんなキャラでしたっけ?」

「…さぁ。」
 くすっと笑いながら私は言葉を濁す。

「あ、雨宮さん雨宮さん!お客さん来ましたよ!」

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