意地悪な片思い
「お昼お先いただきます。」
まだ作業中の品川さんに私は一声かける。
長嶋さんから良い報告をいただけたことがプラスになったのか、予定よりも早くに取り組んでいたものを終わらせることができた。それでもお昼はとっくに回っちゃってるけど。
「失礼します。」
そう言いながら給湯室のドアを開ける。
「誰もいないか。」
ほっと私は一息ついた。
ずっとメインルームにいたせいか、給湯室であれど一人になれたという事実に安心してしまったからなのかもしれない。
「コーヒーコーヒー」
鼻歌交じりに私は言葉を口にする。
今日のお昼はおにぎりですよー、自分に言いかけるように心内でつぶやいた。
「お疲れさまです。」
そんな私に突然声がかかってくる。
一人の時間も一握りだったな。
私は新たに給湯室に入ってきた人に、お疲れ様ですと返事しようと振り返った。
って、
「会えたでしょ?」
立っていたのは、恍惚そうに微笑む人――
「…俺だよって素直に声かけてくださいよ。」
速水さん。
彼は返事する代わりに口元に笑みを浮かべる。
「コーヒーコーヒー。」
からかうように私の真似をして口ずさんだ。
そんなとこから見られてたなんて。
「またからかうー。」
速水さんはバタンと給湯室の扉を閉めた。
「嬉しい?」
「……嬉しいですよ。」
「電話で泣いてたもんね、俺に会いたくて。」
……もうどうとでも言ってくれ。煮るなり焼くなり好きにしてくれていいよってんだ。
私はコーヒーをコップに注ぐ。