意地悪な片思い

キスの反対


 次の日の月曜、いつも通り出勤する。月曜独特の会社に対する憂鬱感が少ないのは、たぶんきっと速水さんとの電話のせい。

「明日も会える。」
 電話で彼が言った言葉を私は小さく口にしてみる。バスが停留所に止まって、私は席を立ちあがった。


 会社に着いてカタカタカタカタ、パソコンのキーボードを叩き始める。仕上げられた時間で私の昼食入り時間が決まる、つまりまぁ結構切羽詰まってるってこと。

「市田。」

「はい。」
 背後から声をかけてきた長嶋さんに、私は振り返って返事した。
彼の手元には一枚の書類、先日私が企画書として提出したそれとよく似ている。

またやり直しパターンだな…。

「すみません、すぐ練り直します。」
 長嶋さんが口を開く前に、私は頭を下げてそれを受取ろうと手を伸ばした。

「よくできてた、これ。続きお願いね。」
 にっこり笑うと、止まっている私の手元にそれをすり込ませる。

「ありがとうございます。」
 冷静を装って受け取ってるけど、やり直しじゃなかったー!って心内じゃお祭り騒ぎ。
一発合格だよ、私は小さくガッツポーズを落とす。

速水さんに報告したいなぁ、 私はちらっと彼の席を覗いた。

いないか…、残念。
“会える”って彼は言ったけど、たぶん話せるって意味じゃなくて、同じ場所にいれるよって意味の“会える”なんだろうな。
私は話せるほうの会えるを期待してたんだけど。

まぁしょうがないよね。
私はパソコンに再び向き合い始めた。

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