意地悪な片思い

「速水さん。」

「何?」

「私もコーヒーいただいていいですか?」

「ん。」
 彼は新しいカップに注ぎ始めてくれる。

「今俺が作ったばっかりだから。」
 白い湯気がもわ~んとカップから立ち上がった。

「あ、そういえばDVD借りた?」
 彼は電話で話した、私の週末予定のことを尋ねてくる。

「帰り、感想教えて。」
 電話のことに触れるけど、あのことを口に出そうとはしない。
電話まで折り返してきたぐらいだから内心、気にしてるはずなのに。

やっぱり。私が話すまで待つつもりなんだな。本当、優しんだ速水さんは。

すっごい意地悪してくるくせに。


ほら今だって、
「熱いから気をつけな。」
 そう言って、優しく微笑んでくれてる。

「ばか」
 すっかり彼の意地悪なところがうつっちゃったみたいで、私はそう言っちゃうけどさ、でも。

「はいはい。」
 速水さんはそんな私を見透かしてくれて、しょうがないなって笑い返してくれる。


あーあ、もう降参だ。

意地っ張りな私も含めて好きだって言ってくれる、その人が、彼が、速水さんが、私は好きだ。
大好きだよ。


だけどね。
やっぱり私は意地っ張りだから、伝えるのも少し尖がっちゃうんだ。

だから、最初速水さんが思いを伝えてくれた方法を、私も使っちゃっていいかな。

分かりにくいけど、素直じゃない私らしくさ。

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