意地悪な片思い

 キイときしむ音をたて給湯室の扉をあけた瞬間、コーヒーの香りが広がった。
誰かが絶えず小休憩をとりにくるここは、いつもその匂いがする。

コーヒーの香りが好きな私にとって、仕事中のここは至極の部屋、それでも今の目的はそれではない。


ごみ、ごみっと。

水面台の横に設置されているゴミ箱のふたを開けた。右側、赤いボディの可燃ごみ。
少量だったため手でつかみ、持ってきたゴミ袋にそのまま入れてしまう。

隣に並んでおいてあるペットボトルのゴミ箱はどうしようかと迷ったのだが、
既にゴミ箱一杯だったため、ゴミ箱にしていた袋を取り出し封をして一緒に捨てることにした。


これですることは済んだ。
あとは長嶋さんに報告するだけ。

しかし一向にオフィスに人が出入りする気配がしない。
私は開けっ放しの扉から向こうを覗いた。
やっぱり静かな廊下。

会社に一人っきりみたい。


一杯コーヒー飲んじゃおうかな。
シンクの上に置かれているコーヒードリッパー。私に飲んでほしいとばかりにあと1杯分ぐらいしかそこにはない。

私はもう帰るけど、今日残業する人には必要だよね。

カップに残りのコーヒーを注ぐと、豆を取り出し分量を少なめにそこにいれた。ドリッパーがカツカツ音を立て始める。

そして唐突にだった。


「お疲れさま。」
 私の後ろ背に誰かが声をかけた。

< 6 / 304 >

この作品をシェア

pagetop