意地悪な片思い

「はい。」

「速水さんはちなみにいる…の?」
 どくんと心臓が鼓動する音が聞こえた。

「勿論ですよ。」
 過敏になった私を無視して、呆気なく内川くんから答えが飛んでくる。

「そっか…。」
 いるんだ。

「3人飲みか、あと1人誘えばいいのに。」
 私はその場を取り繕うように笑いながらそんなことを言った。

「あれ市田さん、仕事切羽詰まってる感じですか?」

「いやまだ余裕はあるけど。」
 内川くんに視線を戻す。

「びっくりした、3人で飲むとか言い出すから。

市田さんも参加ですよ、もちろん。」

「え?ちょっと…」
 私がまだ喋っている途中だというのに、

「今、余裕あるって言ったんで断りはなしですからね。断っていいのは長嶋さんだけです。」
 と言って私の言葉を掻き消す。


「場所はこの間と同じところでいいかな~。
時間はもちろん長嶋さんの都合に合わせますので。」

「あ、うん。」
 ってまた長嶋さんかい。

「ま、ここで決めても長嶋さんの都合が悪かったら元も子もないので、それも連絡で決めましょう。」

「了解です。」

「じゃぁ俺もう行かないとなんで。連絡待ってますねー!」

それだけ言うと、今度は私のじゃぁの字も聞かず疾風のように去っていった。

……内川くんは律儀だって言ったけどやっぱり撤回。律儀な範疇は長嶋さんだけらしい。

しかし、怒涛のようだったな。
苦笑いを浮かべながら、鞄から取り出したスケジュール帳の3と書かれた日付のところに「食事」と簡単に書く。


……飲み会か。

この間は自分からは逃げれなかった。
でも今度は違う、今ならまだ断れる。

連絡しておけばいいんだもん、私は用事があるって。


…だけど、話さなきゃ。

あの人に。
全部。

パソコン横に立てらかしてるノートの正体の気持ちを。

私は席を立った。
長嶋さんの仕事が切羽詰まっていませんように、そう思いながら。

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