クール上司の甘すぎ捕獲宣言!
途端に、体が密着する。

「!」

突然のことに抵抗する間も与えられず、耳に小野原さんの息がかかった。

「……じゃあ、俺が香奈を家まで送り届けるのと、送らない代わりにここで俺にキスされるのと、どっちがいい?」

「……はいっ!?」

な、何よ、その選択肢! 意味が分からない!

「からかわないで下さい」と言おうとして、顔を上げたけどーー

小野原さんは真顔で、真っ直ぐ私を見下ろしている。

ーーだめだ、この人、目がマジだ!


「は、離して下さい、朱音さんに見られますよっ」

「見られても構わないよ」

「絶対良くないですっ!」

「……それで、どっちがいい?」

その話、まだ続いてたのー!?

「わ、分かりましたから!送って下さい!」

これ以上、密着してたら顔から蒸気が出そう!

そんな私を見て、「……香奈はかわいいな」と小野原さんが微笑えむ。

うー……こんな時にその笑顔、反則ですよ……。

それに、かわいいなんて、男の人に言われたことないし……。




「あっ、二人とも!何やってんのよー!!」



キッチンに顔を出した朱音さんの金切り声が、部屋中に響いたのは言うまでもない――。






背後から突き刺すような視線を感じる……。

助手席に私、後部座席に朱音さんを乗せた車が道路を走る。

朱音さんはこの後、バイトがあるらしく、ついでに乗っていくことになった。まだ時間があるし、本人はもう少し居たかったみたいだけど、小野原さんに、そんなに元気ならもう行くように、と諭されたようだ。

「私もバイト先まで送って!」という朱音さんの要求は、「ここからだと電車の方が速いから駅まで」という小野原さんの一言で片付けられてしまった。

きっと、家まで送ってもらう私に、敵意をむき出しにしてるんだろうな……。

やがて、最寄り駅についた。私が使っている駅とは別だった。エリアも違うし、だから普段、会わなかったんだ。

朱音さんは、「じゃあ、お兄ちゃん、またね」と車を降りていった。

「ちょっと、あんた、お兄ちゃんに手を出したら、許さないからね!」と、私に釘をさすのも忘れずに……。

はぁ……嵐が去った気分……。

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