クール上司の甘すぎ捕獲宣言!
「ごめんな、香奈。妹があんな感じで」
二人きりになった車中で、小野原さんが謝ってきた。
「……いえ……なかなかパワフルな妹さんで……」
私は苦笑いで返す。
あんなに、全力で誰かに絡まれたのは、生まれて初めてだ。
「……朱音は、俺を唯一の家族だと思ってる節があって」
「……唯一……?」
「ああ。俺達の両親は六年前に他界してるんだ」
「え……?」
私は、小野原さんの方を見た。ハンドルを握って前方を向いたままの小野原さんの顔は、いつも通りだ。
「あの……ごめんなさい……」
「何で香奈が謝るんだ?俺が話し始めたことなんだから、気にしなくていい」
小野原さんは、左手を私の頭にポンッと軽く乗せた。……大きくて、温かい手……。
「交通事故だった。両親の死後は、叔父夫婦が親代わりになってくれたんだ。叔父のところには子供がいなかったから」
赤信号で、停車する。
「俺はもう、その時社会人だったし、自分の中で気持ちの整理が出来たが、朱音はその頃、中学生で思春期真っ只中というか……叔父夫婦にも随分、反発したみたいだ」
「……そうだったんですか……」
「だけど、今はもうそんなわだかまりも無くなって、叔父夫婦を実の親みたいに慕って、大事にしてるよ。本当は素直で優しい子なんだ」
信号が青に変わって、再び発車した。
「でも、俺のこととなると、時々あんな風になることがあって。やっぱり心のどこかで、家族は俺だけだ、と思ってるのかもしれないな」
……そうか。あの気の強さは、朱音さんの寂しさの表れなのかもしれない。勝手に、ブラコン妹、とか思っちゃって、悪かったな……。