クール上司の甘すぎ捕獲宣言!
車窓の外の風景が、徐々に見慣れたものになってきた。自宅マンションが近いのだと分かる。
マンションの前で、ショートカットの女性が一人、立っているのが見えた。
志帆だ。もう来てる。
マンションに横付けされた車から、急いで降りた。
小野原さんにお礼を言って、自転車を受け取ろうとしたけど、俺がそこまで運ぶから先に行って、と言ってくれたので、自転車をお願いして志帆の元へ急ぐ。
「志帆、ごめんね!待ったよね?」
「私こそ、ごめん、予定より早く……来……ちゃっ……て……」
私の声に振り向いた志帆だったが、最後の方は言葉が途切れ途切れになった。
原因は分かってる。それは、私の後から現れた眼鏡の男性。
「ねえ、香奈、この人は……?」
志帆が私の袖を引っ張り、小声で尋ねる。
「えっと、会社の上司の……」
「小野原です」
私より先に、本人が名乗る。
志帆は最初、少し怪訝そうに小野原さんを見ていたけど、すぐに、「あ、なるほど」と小さくつぶやいた。
「初めまして、有峰です。香奈のこと、よろしくお願いします。香奈は外見はしっかりしてるように見えますけど、実は中身結構弱いし、慎重で臆病なので」
「ちょっと、志帆……」
「はい。任せて下さい」
なんて、小野原さんも答えてる。何も言わなくても二人は何か通じ合うものがあるようだ。
「じゃあ、俺は帰るよ。まだ部屋までは行かないから」と、小野原さんは私に自転車を手渡しながら言った。
「また、連絡する」
車に戻っていく小野原さんの姿を見送っていると、志帆が肘で脇腹をつついてきた。
「香奈~、今日はいろいろと聞くことがありそうね。別れが寂しいんじゃない?」
志帆は楽しそうだ。
私、そんな顔してたかな……?
「違うってば……」
私は自転車を押しながら、さっさと駐輪場へ向かった。
そういえば、志帆のお気に入りのケーキ屋さんに行くの、すっかり忘れてた……。