婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
「自分とはえらい違いだと思ってるだろう? 帆夏。女の子はいずれ家を出て行くが、男は違う。特に樹君は、将来企業のトップに立つ人間に必要な帝王学……。そういうものを叩きこまれたんだよ」


父の言葉の意味を理解しながらも、私はどう反応していいかわからずに膝の上に置いた両手を見つめた。


「……ですから、大切な人を作らないんですよ、樹君は。女性との付き合い方もいつもドライでサバサバしてて。はたから見れば遊んでるようにしか見えなくても、そう見えれば見えるほど、樹君の誠実さの表れだと私は思ってます」


社長の説明を補足するように、深雪さんが私に静かにそう言った。
私は黙ってゴクッと喉を鳴らした。


「本気で好きな人が出来てしまったら、政略結婚を迎える運命も家も会社も、投げ捨てたくなるでしょう? それがどんなに大変なことか、樹君はちゃんとわかってるんですよ。……彼がどんなに大切に思っても、その人は決して手に入らないんです」


深雪さんの言葉を聞いて、私は樹さんに向けた自分の言葉を思い出した。
そして、その言葉に胸が抉られるような思いに駆られた。


『樹さんの宝物になりたい』


私にとっては思いの丈をぶつける『プロポーズ』だったけど。
宝物どころか、願うものを全て諦めてきた樹さんにとっては、どんなに残酷に響いたんだろう――。
< 121 / 236 >

この作品をシェア

pagetop