婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
何度も繰り返し小さく重なるだけなのに、今までのどんなキスより甘く優しくて、私の胸はきゅんきゅん疼く。
私の頬を押さえ込む樹さんの両手に、思わず手を掛けた。


樹さんは更に私の頭を抱え込むように手を動かしながら、最後に一度軽く私の唇を吸い上げて小さな音を立ててから、そっと唇を離した。


「……ちなみに、明日は予定ある。デートは無理。どっかの政治団体主催のパーティーだとか。……お前、親父さんから言われてないの?」

「え……?」

「ああ、つまり同伴なしか。帆夏はお留守番だね」


ボーッと樹さんの唇を目で追いながら、彼が発した言葉に思わず声を上げた。


「そ、そんなっ……」


せっかく誘えたのに。
交換条件だから、白状したのに。
これもまた、樹さんの意地悪だったなんてっ……!


あまりのショックに呆然とする私をフッと笑って、樹さんはゆっくり身体を起こす。
『風呂入ってくるわ』と言って歩いて行く樹さんを見送りながら、私は大きく胸を喘がせた。


さっきまで全然意識しなかったテレビの音声が耳に届く中、私はゆっくり身体を起こして、ソファの上でペッタリと座り込んだ。
そして、なかなか治まらない頬の火照りを鎮めようと、両手でぎゅうっと押さえつけた。


樹さんの意地悪が、なんだか徐々に甘くなる。
樹さんの心には全然追い付けないとわかっていても、ときめく心は抑えられない。
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