婚前同居～イジワル御曹司とひとつ屋根の下～

「あ、ありがとうございます！」

「それ、修正入れたらプリントアウトして。印鑑ついて、提出すること」

「はいっ……！」


樹さんから託されたこの仕事は、どうやらこれでクリアー出来るようだ。
それにホッとして、私の表情もつい緩んでしまう。


そんな私に、樹さんはわずかに眉をひそめた。


「喜んでるとこ水差すようで悪いけど、それ、誰にでも出来る仕事なんだけど」

「はいっ！　次はもっと早く正確に作れるよう、頑張りますね！」

「……早くなくていい。とりあえず、正確性だけ考えてくれりゃ」


樹さんは私を皮肉るのを早々に諦めて、はあっと息をつくと背もたれに深く身体を預けた。
疲れた様子が気になって、私は身体の前で書類を両手で持ちながら、あの、と窺うような声を掛ける。


「樹さん、今日お昼行きましたか？」

「抜いた」

「やっぱり！　あの、これのチェックのせいで？」


申し訳ない気分になりながら更に問い掛ける私に、樹さんは黙って首を横に振った。


「別にお前のせいじゃないから、さっさと仕事戻れ」

「わ、私、なにか簡単に食べられるもの、買ってきます！　樹さん、なにがいいですか？」


捲し立てるようにそう言うと、再び「いいから」と樹さんに阻まれた。
さすがにそれ以上無理には言えず、私はしゅんと肩をすぼめた。