婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
「それじゃあ、今日のお夕飯は樹さんの好きなものたくさん作ります! あの……だから、出来るだけ早く帰ってきてください」


うるさいな、と拒否られるのを覚悟でそう言うと、樹さんがフッと目を上げた。
私にまっすぐ向けられる黒い瞳にドキッとして口を噤むと、彼は一瞬確かにフッと表情を和らげた。


「あ、あの……?」


未だに樹さんのそんな表情は私にとってレアだ。
更にドキドキしながら声を掛けると、樹さんはクッと短く肩を揺らして笑い出した。


「いや。お前のそういうとこ、鬱陶しいしうざったいんだけど。……なんだろうな~。最近いちいち言い返すのも面倒になってきた俺がいる」

「……え?」


言い方や言葉はいちいち毒が籠ってるのを感じるのに、樹さんの表情が穏やかだし、その上楽しげだから、私も何度も瞬きをして聞き返していた。


「お節介焼かれて、『はいはい』って受け流すのが、割と自分に浸透してきたって言うかね。……こういうの、絆されてるって言うのかな」


自分で呟いた答えに軽く首を傾げながら、樹さんはガタッと音を立てて椅子から立ち上がった。
そして、会議中は椅子に掛けていた上着をサッと羽織ってから、ドアに向かって歩いていく。
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