婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
「トイレにまでついてくるなよ。……まあいいや。じゃ、俺も七時にはオフィス出るから、お前は先に出てどっかで時間潰しておけ」

「は、はいっ……!」

「一応、お前の分のチケット渡しとくから。もし俺が遅れても、それで先に入ってろ」

「はいっ」


樹さんが私にくれたチケットを両手の指でしっかりと支え持ち、私は券面を食い入るように見つめた。
じゃ、と一言だけ残して、今度こそ会議室から出て行く背中を見送って、私は高鳴る鼓動を抑えるのに必死だった、けれど。


「……このチケット……」


もらった、って言ったから、招待券とかの類だと思ったのに。
ついこの間日米同時公開されたハリウッドの大作ファンタジーで、私も観たいと思っていた映画だった。
オフィスからほど近いシネコンで発行されたもので、席も時間もちゃんと印字されている。


「ちゃんと自分で買ってきてくれたのかな……」


無意識に独り言を繰り出しながら、私は樹さんが映画館の窓口でチケットを購入してる姿を想像していた。
あの樹さんが、この映画のタイトルを告げて『大人二枚』って言いながら席を選んだとか……。


「ひゃああ……」


思わず両手で頬を押さえてしまった。
その時、樹さんの心の中に少しでも私がいたかもしれないってとこまで妄想したら、ジタバタしたくなるくらい嬉しかった。
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