婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
ウキウキしながらデスクに戻ると、私の気配に気付いた青木さんが、チラッと私に目を向けた。


「お帰り」


短い言葉に返事をしてから、なんとなく樹さんのデスクの方に目を遣り、スカートの裾を押さえて腰を下ろした。


樹さんは定例会議の後、そのまま別の会議に行ってしまったようで、そこに姿は見えなかったけれど。
私はロングカーディガンのポケットに忍ばせた映画のチケットを無意識に手で押さえながら、顔がニヤニヤしてしまうのを抑えられない。


そんな気味の悪い私を横からばっちり見ていた青木さんが、頬杖をついて「ねえ」と呼び掛けてきた。


「な~にをわかりやすくニヤニヤしてんの」

「えっ!?」


思わず両手で頬を押さえながら声をひっくり返らせると、青木さんはふうっと大きな息をついた。


「春海君に呼ばれてたじゃない。って言うか、最近やけに嬉しそう。なんかあったんじゃないの?」


探るような質問に、額にじんわりと汗が浮かぶのを感じる。
ここはやっぱり普通の社内恋愛の鉄則にのっとって、誤魔化しておくべきなんだろうな~と思いながら、私は、はは、と愛想笑いを浮かべた。


「ほ、ほら! 樹さんも鬼じゃないってことですよ。これでも一応私の頑張りを評価し始めてくれたってことで……」

「それはないでしょ。春海君は情に流されるほど情が有り余った男じゃない」


樹さんに負けず劣らず毒に満ちた言い方をされて、私もさすがに口籠る。
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