婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
「拾ったから持ち主が現れるかもって思って来てみた、って言ってたな。正直、場内が暗くなってすぐ青木と鉢合わせて焦ったけど。『真の持ち主が現れたら、席はもちろん代わるから』って言われて、帆夏が来たらバレるなって思ってた」


樹さんの言葉を聞きながら、それならあのまま帰ってきたのは正しい行動だったんだ、と思った。
今夜のデートがバレるだけじゃない。
まだ非公式な私と樹さんの政略結婚まで、青木さんは辿り着いてしまうだろうから。


そうは思っても、私の心はざわついたままだ。
もしかしたら樹さんのことを好きなのかもしれない青木さんが、樹さんの隣で最後まで映画を観ていたこと。
そればっかりがモヤモヤして仕方ない。


「……まあ、映画終わった後、アイツ、俺にシレッと言ったけどな。『来なかったわね~、帆夏ちゃん』って。どうせ知られるなら、途中で席立って帰ってくれば良かったって思ったよ」


樹さんは肩を竦めながらそう言って、私にクルッと背を向けた。
その背中をジッと見つめて、私は樹さんの言葉の意味を考える。


樹さんは、私に背を向けたままで小さく呟いた。


「……帆夏。婚約、発表しようか」

「……え?」


彼の声に導かれて、私は大きく目を見開いていた。
その真意がわからなくて、私はただ次の言葉を待つ。
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