婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
一度強く吹いた冷たい夜風に肩を竦めて、樹さんはブルッと身体を震わせた。


「見抜いてるヤツがいること考えれば、もう隠してる方が面倒だろ。……寒い。帆夏、部屋に入るぞ」


そう言われても、私は腰掛けたまま動けない。
エントランスの自動ドアの目の前まで行って、樹さんが不審そうに私を振り返った。


「帆夏? なにしてるんだ? さっさと来い」


促されても黙って凍り付いたままの私に、樹さんが訝し気に首を傾げた。


「帆夏」


再びそう呼びかけられる、けれど……。


「私……入っていいんですか」


迷ったままそう訊ねた私に、樹さんは眉を寄せた。


「帆夏?」

「そんな理由で、本当に婚約者になっていいんですか」


私が続けた問い掛けに、樹さんもそれ以上言わずに黙り込む。


「婚約も、お試し同居も、樹さんを追い込むものでしかないのに……」


返事は返ってこない。
だからこそ、私の言葉は図星を突いたんだと思った。


「私……樹さんが私に恋出来ないなら、ここで一緒に暮らさない方がいいのかも、って思って……」

「だから部屋に入らずにこんなとこで待ってたのか」


呆れたような口調と表情を向けられて、私は黙って一度頷いた。
樹さんはパンツのポケットに手を突っ込みながら、上体だけで私を振り返った。
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