婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
「今までを思い起こしても、お前に感謝するようなこと、一個も記憶に掠らないからな。当然だろ」

「わ、私……今日はちょっとはお役に立てましたか……」


ズビッと鼻を啜りながら呟くと、樹さんは黙ったまま何度か小さく首を縦に振った。


「だから、礼言ったろ」

「よかった……私、樹さんを支えることが出来たみたいで……」


そう続けて、涙を飲み込もうと、一度大きく息を吐いた。
そして、ちょっとだけ躊躇ってから、もう一歩樹さんに近付く。


顎を上げて私を見上げる樹さんの額に、そっと手を当てた。
オフィスで同じことをした時と違って、今度は手も振り払われない。


そんな樹さんの反応と、手に伝わる温もりに安心して、私はホッと肩で息をした。


「……本当だ。少し下がりましたね。……でも、今日はちゃんと薬飲んでゆっくり寝てくださいね。あ、樹さん、夕飯食べてないですよね? 私、お粥作ろうと思って買い物してきてっ……」


そう言いながら、手を離す。
涙を拭ってからニッコリと微笑んで見せた。


「定番ですけど、鶏肉と卵のお粥でいいですか? えっと……嫌かもしれないけど、今夜は絶対食べてもらいますからねっ」


そう言いながら大股で移動して、ドアに手を掛けた。
そのまま部屋から出ようとした時。


「……生駒」


静かに呼ばれて、私もゆっくり顔だけで振り返った。
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