夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく
どうしよう、どうしよう、どうしよう。

その言葉だけが頭の中でぐるぐると回る。


私の両側をどんどん人が通りすぎていく。

それでも、私だけは動けない。

まるで自分だけが違う次元にいるかのようだった。


どれくらい時間が過ぎたかも分からなくなったとき、ふいに「おい」と背後から声をかけられた。


軋む首をゆっくりと巡らせて、声の主を見る。


「……青磁」


怪訝そうな顔をした青磁がそこに立っていた。

口許に押し当てていたハンカチを持つ手に力が入る。


「茜。何こんなとこでぼうっとしてんだよ」

「……え、あ」


うまく答えられない。

青磁がぐっと眉根を寄せた。


「遅刻するぞ」


そんなの、言われなくても分かってる。

でも、動けないんだから、仕方ないじゃない。


身体は動かないのに、声も出せないのに、心の中では反論が生まれた。


しばらく不審そうに私を見ていた青磁が、唐突にこちらに手を伸ばしてくる。

何事かと思ったら、手首をつかまれた。


「……っ」


やめてよ、触らないで、と言いたかったのに、突然のことに驚きすぎて何も言えない。


「行くぞ」


戸惑う私には構わずに、青磁は私の手を引いて歩き出した。


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