夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく
そんなある日のことだった。


少し寝坊してしまったお母さんに頼まれて、玲奈を保育園まで送っていった帰り。

そのまま駅に行って高校に向かおうと思っていたのだけれど、そこで、マスクを忘れてきたことに気がついてしまった。


「……うそ、最悪」


思わずつぶやきが洩れた。

朝ばたばたしていたせいで、いつものリズムが崩れてしまったからだ。


「取りに戻らなきゃ……」


でも、腕時計を見たら、そんな時間の余裕はなかった。

このまますぐに電車に乗らないと、遅れてしまう。


仕方がない、とマスクのことは諦めて、ハンカチを口許に押し当ててながら私は駅に足を向けた。


でも、歩いているうちにどんどん足が重くなってきた。

まるで何キロもする石でもくくりつけて引きずっているかのように、一歩を踏み出すことが難しい。


歩き始めて五分もしないうちに、とうとう足が止まってしまった。


たくさんの人が駅に向かって流れていく中に、ただひとり立ちすくむ。

なぜ歩けないのか自分でもわからなくて、私は呆然と前を見た。


早く行かなきゃ。

遅刻してしまう。

皆勤がかかっているんだから、たとえ一分でも遅れるわけにはいかないのだ。


頭では分かっているのに、どうしても身体が動かない。

心が動かない。


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