どん底女と救世主。

「大変だったみたいですね。課長、主役だったはずなのに。お疲れ様でした」

「お前も参加すれば良かったのに。体調でも悪いのか?」


課長はやっぱり酔っているらしく、目が少し赤い。その顔は妙に色気が漂っていて。

隣、しかもすごく近い距離に座る課長の顔はすぐ横にある。

一気に顔に熱が集中していくのが分かった。

目の毒だ…。


そう思い慌てて目を逸らすと、

ーーふわ

いつもとは違う匂いが鼻に届いた。


香水の匂い。どこかで嗅いだことのある匂いだ。


あ、この匂い希ちゃんの…。


甘いベリー系の香りは、間違いなく希ちゃんの香水だ。


そう答えに行き着くと、頭の中で走馬灯のようにあの日の記憶が蘇る。


脱ぎ捨てたハイヒール。軋むソファのスプリング。息遣い。



「おい、顔色悪いぞ」


気分が悪くなりかけていたとき、耳元から聞こえたその声に意識が引き戻された。


心配そうに眉間にしわを寄せる課長。
何か応えないと、と言葉を探していると、


「触らないでっ…」


ーーぱしっ。

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