どん底女と救世主。


お姉さんを玄関まで見送って、ふたりで部屋へと戻る。


すると。


『まだ付き合って間がないから親父たちには言うなよ』、と口止めまでして見送ったぬかりのない課長と、成り行きでソファに並んで座ることに。


自然に隣同士に座ってしまい、その距離感に慄く。

あからさまに高そう革張りのソファは座り心地はいいけれど。


課長との距離が、近い…。しまった、なんで図々しくも隣になんて座ってしまったんだろう。


決して狭くはないソファだけど、課長の体温を感じる程度に近い。


ちらりと横を見ると、長い足、膝の上に置いた男らしい骨ばった手が見えて、妙に意識し始める。

だめだ、この距離は同居人の距離じゃない。

そう思い、お姉さんに貰ったチョコレートをお皿に移すことを口実に席を立とうとすると、


「悪かったな、いきなり」


と、隣から謝罪が聞こえた。

全然違うことを考えていた私は、一瞬何のことか分からなかったけど、お姉さんのことかと気づく。


「いや、私は大丈夫ですけど。でもいいんですか?お姉さんに私のこと彼女だなんて嘘ついて」


次に会ったときには、別れたとでも言うのかな。それもまた面倒くさそうだけど。

あれこれ頭の中で考えていたとき、隣の課長からとんでもない一言が聞こえた。


「いっそ彼女になればいいんじゃないか?」


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