もしもの恋となのにの恋
「俺は鰯より千鶴の方が綺麗だと思うけど?」
俺は思わずそんなことを口にしていた。
そのセリフに千鶴は盛大に吹き出し、笑った。
俺はそれを見て微笑んだ。
本当に千鶴は陽だまりのような笑みを溢す。
嗚呼、暖かい・・・。
「鰯と比べられて綺麗って言われても」
千鶴は小声でそう言うと今度はクスクスと笑った。
確かにそうだ。
一体、世界のどこに彼女と鰯を比べる彼氏がいる。
そんなことを言ったのは世界でも俺くらいのものだろう。
なら今日は記念すべき世界初のセリフ日だ。
「ゴメン。魚と比べられるのは流石に嫌だったよね?本当にごめん」
俺は満面に苦い笑みを浮かべ、右手で首の後ろを撫で付けた。
「大丈夫」
千鶴はそう言うとまた笑ってくれた。
そして、そのあとすぐにどこか泣き出しそうな表情を浮かべた。
ただ、その表情は悲しいものではなく、暖かいものだった。
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