もしもの恋となのにの恋

「・・・何で?・・・どうしてよ?」
うわ言のように夏喜は呟いた。
そんな夏喜を私は黙って見つめていた。
嗚呼、何かが崩れる音が聞こえる・・・。
「何で秋人はいつも千鶴が一番なの!?何で私じゃないの!?私は秋人のことが本当に好きなのに!何で秋人は叶わない恋をずっとしていられるの!?ねえ!何でよ!?」
ガラガラと音をたてて何かが崩れていく・・・。
人って本当に脆い・・・。
私はそんなとこを呑気に思った。
おぞましい崩壊の音がしているのに・・・だ。
本当に私は呑気だ。
そして、私は本当に薄情で愚かな人間だ・・・。
嗚呼、もう私たちは元には戻れない・・・。
そう思ってもなぜか悲しくはなかった。
まるで感情が死んだかのように私の心は虚無であり、凪いでいた・・・。
私はこっそりと隣にいる秋人の様子を窺った。
秋人のその横顔の心情もまた私と同じように虚無で凪いでいるようだった。
ただ一人、夏喜だけが吠えて荒れていた・・・。
私はそれが何だか不思議だった。
人ってこんなに変わるんだ・・・。
またそんなことを呑気に心の内で思った。
< 98 / 105 >

この作品をシェア

pagetop