冷徹社長の秘密〜彼が社長を脱いだなら〜
もっとちゃんと見たい。立ち上がり、急いで洗面所に向かった大きな鏡に映る私の首元には諒がくれたあのチャームとそっくりな赤いハートが輝いていた。

「可愛い、可愛い」

パタパタとスリッパの音を響かせて急いで、諒がいるリビングへと戻った。


「可愛い。本当に可愛いです。嬉しい。チャームをつけているみたいです」


「気に入ったならよかった。みぃ、頑張れよ」


もう一度、諒の隣に座りなおし、彼の目を見ながら聞いた。


「あの、あの・・・私、いつになったらみぃちゃん以上になれますか?」


「何を言っている?意味がわからない」


「だから!いつまで経ってもみぃちゃんの
代わりなんですか?」


大声で攻め立てると、一瞬キョトンとした諒が大爆笑。こういうやりとり結構多い。そして、決まってこういうときは、私が何かしら見当違いのことを言っている。


「そうか。お前は『みぃ』にまでヤキモチを妬くほど俺のことが好きなのか。可愛いな」


頭をワシワシと撫でられた。こういうところ。私だって一応二十歳を超えた大人なのに、完全に子供扱い。


「そう、不貞腐れるな。じゃあお前にとっておきの種明かしをしてやる」


そう言って少し、照れ臭そうに笑った諒は一度だけ軽く咳払いをして、そっと私の耳元で呟いた。


「俺は一度も、猫を飼ったことはない」

「猫を飼ったことがない?そ、それって」

「そう言えば、お前がその猫の代わりをしてくれると思ったからだ」


諒を見るとこんな顔、初めて見たと思うくらいに赤面していた。「見るなよ」と顔を背けるけれど、こんな貴重な表情見ないなんて勿体無いと思いながらニヤニヤと私は諒の顔を見続けた。まさか、みぃが最初から私のことだったなんて驚きと嬉しさでいっぱいだった。
< 117 / 152 >

この作品をシェア

pagetop