冷徹社長の秘密〜彼が社長を脱いだなら〜
「タヌキ専務らの人形になって、食べられなくなるまではよくラーメンも食べたりしていた。俺、社長になる前は小さなデザイン会社にいたんだ。そんな自分にいきなり社長になれなんて断るに決まってるだろ?」


「そ、そうだったんですか?!」


ハンドルを握って運転する横顔は、さっきみたく笑ってはいない。そっか。社長になる前、諒は普通の人だったんだ。


それがいきなり、大手ブランドの社長のポストに就いてほしいと言われても、すぐには頷けない。もし、ありえないけれど私が諒の立場なら、百パーセントお断り。


「今、思えばあれはタヌキ専務の策略だったんだろう。表向きは俺を社長にする。でも実際は自分が実権を握って、最終的にジョルフェムを自分のものにするつもりだったんだろうな」


「・・・悪代官みたいですね。お主も悪よのうみたいな」


「ぷっ、だから運転中にそういうこと言うのはやめろ。ハンドルミスするだろう。でも、正解だ。これからはタヌキ専務をやめて悪代官にするか」


本当に話を聞いていると悪代官としか思えない自分の手は汚さず、悪どいことを考えているんだから。


しかも、諒を摂食障害にさせるなんて許せない。まあ私ごときがその悪代官を懲らしめるなんて無理だけど。
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