アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)

「あの人は知り合い?」

ミハイルは食品売り場に入っていく蒔田くんの後ろ姿に目を細めた。

「うん、……昔のね。まさかこんなところで会うとは思わなかった」
「荷物を」


彼は私の手から買い物袋を取ると、さっとカートに積んだ。

ミハイルがカートを押してくれるので、久しぶりに会った元恋人の姿に、私はしばし気をとられた。


はじめの印象ではあまり変わっていないと感じた彼も、話をしてみるとやはり少し変わっていた。
転職、結婚、離婚。それだけのことがあったのだから変わるなという方が無理なのだろう。

彼の顔を見たことで、自然と昔のことが思い出された。

毎日聞いていた会社の電話の音。会社ビルの前にあったファミレスや、先輩の叱声。
すでに仕事が嫌になっていた私はよく仕事の愚痴をこぼし、蒔田君はそれに同調した。
残業や勉強会などで帰りの遅い私を心配しつつも見守っていてくれた父。


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