アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)


記憶の中の自分はとても未熟で、思い出すだけで顔が赤くなるような気がする。
それでもちょっとしたことをきっかけに昔の記憶を手繰りはじめるとついそちらに没頭してしまう。

就職先を間違えたと嘆く当時の私はかなり甘えた考えの持ち主だけれど、自分が甘えているということにすら気付いていない。それはそれだけ周囲にも環境にも恵まれていたという事だ。職場の先輩も……少し考えは古いが、でも間違ったことをいっていたわけじゃないと、今なら思える。

もしあそこで頑張っていたら、今ごろはどうなっていただろう。蒔田くんと結婚していただろうか。私が会社員だということで、父は少しくらいは安心して旅立てただろうか……。



「ハル。大丈夫」


はっと我に帰ると、ミハイルが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。いつの間にか私は駐車場にいて、自身の車の脇に突っ立っていた。

「ごめん。寒いのに」


彼は少し笑った。

「日本の冬は寒いうちに入らない」

マフラーを巻いた上でさらに首をすくめるようにして歩く人々の間で、彼は寒さなど感じていないかのような顔をしている。さすがに一年の半分が雪に閉ざされる国の人は寒さに強い。

私とミハイルは急いで荷物を車に積みこんで自宅へと向かった。

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