アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)

これは彼を匿(かくま)ったその日からわかっていたことだ。
こんな生活が長く続けられるはずがない。カガンの事情もあるし、そして私の経済事情も……赤字が続いていた。


ミハイルのためにそろえた服などこまごまとしたもの、日々の食事。
クーデターのせいでカガン人が店に来なくなり、私の店の経営は傾いていた。また、今年は例年になくよく雪がふる。そのせいで客足が鈍い。さまざまな要素が重なって私の経済状況にじわじわと響いていた。

この暮らしに慣れればそのうちになんとかやりくりもできるようになるのかもしれない。
けれど今のところ私の収入と出費はバランスが悪く、ここ数ヶ月はずっと赤字だった。少しずつ貯金を切り崩しながら過ごす暮らしはそのうちに破綻する。


春になれば春物も必要になる。
私は去年のものでもいいが、身一つでここにやってきたミハイルには絶対に着るものが必要だ。

食費は商売が商売なので人一人が増えたところでたいして財布を圧迫するわけではないが、被服費関連は大きい。彼の場合は特に「足りないものを買い足す」ではなく一から揃えねばならないので、最低限のものを買うだけでもそれなりの金額が必要だった。
といっても私と同年代の女性の稼ぎならそこそこの年収に加えてボーナスもあるはずなので、これしきのことで台所事情が苦しくなるのはそもそも私の稼ぎが少なすぎるだけなのだろう。

お客の足を店に向けさせることができればいいのだが、カガンのクーデターは私の努力ではどうにもできないし、ひどい雪もまた同じだ。私はうーんと呻いてダイニングテーブルに肘をついた。
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