アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)


タイミングがいいというべきか悪いというべきか、私は昨夜ミハイルのプロポーズの言葉を聞いた。
熱に浮かされたような状態の彼が口にしたプロポーズは真剣に受け止める類のものではない。それはわきまえているつもりだった。

けれど、一人暮らしの寂しさゆえか、それともこの特殊な状況ゆえか。
私は何度も何度も彼の言葉を心の中で何度も反芻し、まるでその甘さとの別れを惜しむように彼の言葉を思い出しては噛みしめている。

改めて考えてみれば、私は初めて人から求婚されたのだ。


相手はまだ初めての恋を知ったばかりの青年で、彼が必死で私に伝える愛情の言葉は熱情に浮かされたうわごとのようなものに過ぎないのかもしれない。けれど、それでも私は嬉しかった。

一瞬とはいえ、ミハイルが私と一生を過ごす自分をその心に思い描いてくれたのだ。思わずほろりとするほどのその気持ちからは彼らしい潔癖な香りがした。

嬉しくないはずがなかった。

おそらく、私がミハイルと結婚することはないだろう。
けれど、彼が私のような平凡な人間に捧げてくれたその気持ちは美しく、今後もずっと私の気持ちを彩ってくれるだろうと思えた。

< 183 / 298 >

この作品をシェア

pagetop