アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
18



閉店作業を終えて二階に上がってはみたが、ミハイルはまだ帰っていなかった。
住居と店を繋ぐ階段をゆっくりと上りながら、私はすでに彼が二階にいないことを気配で察していた。


彼が外出することは少しずつ増えていたが、彼が遅くなるたびもう会えないのかもしれないと感じる。
ある日突然彼と二度と会えなくなったとしても不思議なことは何もない。そもそもが不安定な関係なのだ。

誰もいないリビングにあがり、差し込んでくる街灯の明かりの中にポトスの葉が大きな影を広げている。
見慣れたその光景を恐ろしいなどと感じたことは今までなかったはずなのに、私はそれを振り払うように部屋の明かりをつけた。

ここのところの私はいつ訪れるかわからない別れを心待ちにしているような、それでいてそれをひどく恐れているような奇妙な気持ちを味わっていた。一度離れてしまえばもうこんな恐ろしさを味わうことはない。そんな臆病すぎる自分が情けなかった。




それでも気を紛(まぎ)らわすように二人分の夕食を用意しながら彼を待っていると、突然勝手口のドアを誰かが叩いた。


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