アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)




仕事を終え、入浴を済ませるともう時間は21時を回っていた。

私の場合、自宅の1階が店舗になっているので通勤時間はゼロだ。それでも仕事をして最低限の自分の世話をすれば一日は終わってしまう。
玄関脇には郵便物やDMが一緒くたになって積まれている。
いつも片付けきれないまま乱雑な室内を見ると疲れが増すような気がするが、どうも片付けにまで手が回らない。


「片付けなきゃな……」

一人呟いてみるが、一人暮らしなので返事はない。
そのまま片付けをすればいいのだろうが、私は取り込んだままの洗濯物がそのまま積み上げられているソファに腰掛け、テレビをつけた。

何か見たい番組があったわけではない。

適当にび選局し、たまたま流れたバラエティ番組をそのままつけっぱなしにして、私は洗濯物を畳み始めた。
いつもこうだ。洗濯と食事の用意、その日使った場所を軽くモップや布巾などでさっと拭いたら私の家事は終わり。なかなか郵便物のほうまで手が回らない。いや、なかなか手を回す気になれない。


テレビからタレントと若い女性アナウンサーの楽しげな笑い声が響いた。
番組のテーマは「人生で後悔していること」だった。まじめに考えればなかなか重いテーマだが、バラエティ番組だからなのかタレントの技量なのか、テレビからは笑い声が絶える事がない。


番組進行で恋愛の話になった時、タレントがちょっと意地の悪い口調で女性アナウンサーに尋ねた。


「澤井さんくらいになると男なんて思いのままでしょ。後悔なんてきっとしたことないよね」


私は話題に興味を惹かれてタオルをたたむ手を止め、テレビ画面に目をやった。

女性アナウンサーはその質問にくすくすと笑って照れたような声音で答えた。

「やだぁ、そんなことないですよぉ、今も彼氏なんていないですし」


若くてきれいな彼女と中年と言ってもいい年齢のタレントが恋愛の話をしている様子はおたがい腹の探りあいをしているようで変な緊張感がある。
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