アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)

私はその番組を聞き流しながら、溶けた氷が層を作っている梅酒を一口含んだ。


「またまたぁ。そんなことなくないだろ~。
男に限らず、今までなんでも思い通りになってきたんじゃない?進学とか就職とかさ」

「そうだよ。あなた、テレビに出られるくらいきれいでかわいいじゃない」


男性タレントの声と私の声が重なった。

思わず苦笑がもれた。
私の口調が新卒で就職した会社の先輩にそっくりの意地悪な口調だったからだ。


あの会社を先輩のイビりでやめてからもう八年になる。
改めて指を折って数えてみれば、あのころの先輩よりもいつの間にか今の私のほうが年上になってしまっていた。

あのころとても意地悪にみえた先輩よりも今の自分のほうが年上で、同じような口調でものを言っている。
自分では自分が変わっていることに気がつかない。そんなものなのだろうか。


「えーじゃあさ、今まで思い通りにならなかったことってある?大学は名門の○○卒でしょ?就職はウメテレビだし。進学の就職も大成功じゃん」

タレントが笑いながら尋ねると、アナウンサーは少し考えてから答えた。


「そういえば……おかげさまで……ないですね。
周りの皆さんによくしていただいて、ホント、感謝してます」

私は大きく目を見開いた。

もちろんテレビに出るような人と自分が同列の人間だとは思わないが、しかしこの違い。
私は今まで一度も「大成功」を手にしたことがなかった。
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