アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)

おじさんは呆れたようにそう言うと、スポーツ新聞を広げた。


店の中はおじさんと同じような常連客で四つほど席が埋まっている。
店の隅に置いた古いテレビは朝の情報番組がつっけぱなしになっている。
このテレビは古いもので、今では珍しいブラウン管テレビだ。つけていても誰も見ていないようだが、かつてテレビが地上デジタルテレビ放送に移行したときに撤去しようとした途端、常連客がそれに反対した。それからはチューナーを購入して未だに午前中は店の中で活躍している。

普段ならニュースをつけてはいても誰も見ていない。

しかしその日は違った。



「18日未明、カガン国の首都イティルで王宮が爆発しました。
行方不明者8名、王宮で働く従業員18名、警備兵の2名が重軽傷を負った模様です。歴史的建造物として世界遺産に登録されたカガン王宮でこのような爆発が起こったことにカガン国王ユスティニアノス8世は遺憾の意を表明しています。
カガン国警察は事故と事件、両方の可能性を視野に入れて捜査をすると共に、怪我人の捜索にあたるとしています」

私は顔を上げてテレビ画面に見入った。

画面では外国人レポーターが盛んに英語で何か言っていて、画面下に字幕が流れている。
レポーターの背後には砂埃をかぶった植え込み、城壁、そして城壁には激しい銃撃戦でもあったのか、ところどころ小さな穴があいていた。

カガン公邸がこの店の近くにあるのは常連客なら皆知っていることだ。それまで思い思いに過ごしていた常連客たちは皆顔を上げてテレビを見つめている。
彼らの表情は凍り付いていた。

「王宮だって……」
「こわいね」

報道はほんの数十秒ほどのものだった。
アナウンサーはすぐに次のニュースを読み上げ始め、大きく映し出されていたカガンの首都の様子はすぐに別の映像に切り替わった。
カガンは日本から遠い国であり、経済的にも歴史的にも日本とはほとんど交流のない国なので、ニュースでの扱いは小さなものだった。

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