アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)




その日は雪がちらついていた。
雪のせいかお客が少なかった。

私はお客のいない店の中でカウンターにひじをついて、商店街通りを行き過ぎる人々の姿を見つめていた。



もう今日は店を閉めてしまおうか、そう思った瞬間、数人のお客が店のドアを開けた。
私の店のお客にしては若い人たちだった。男の子4人、女の子2人。王子の友人たちだ。知らない顔もあったけれど、その中の数人の顔は知っているような気がした。

肩の雪を払いながら入ってきた彼らの中には例の可愛い女の子もいた。
彼らはいつもそうしていたように、窓側の席に陣取って思い思いのものを注文した。

王子もここに来るのだろうか。
……いや、この状況では気軽に出歩くことなどできるはずがない。
私はポトスの鉢を持っていった男の子の嬉しそうな様子を思い出して小さく首を振った。



「クーデターって……、いつ終わるのかな。私達、それまで王子には会えないのかな」


きれいな女の子が窓の外に目をやった。日暮れ時の商店街通りにぽつぽつと明かりがつき、家路を急ぐ人の姿が増え始める。
ひとりがそうやって表通りに目をやると、みな示し合わせたようにそちらに目をやった。

「……会えるだろ、普通に」

「日本に、カガンからの暗殺者とかテロリストが来るって本当なのかな」

「テロとか暗殺者とか。そんなドラマみたいなこと……あるわけないだろ……。可能性がゼロじゃないってだけの話だよ。
可能性の話をするなら俺がいきなり宝くじを当てる可能性だってある。でも実際はそんなこと起こらない。
人生ってそういうもんだろ……王子はまた学校にくるよ」


私よりも一回りも若い学生が「人生ってそういうもの」と語る言葉はなんだか現実味がなかった。けれど、彼の言ったことは間違ってはいない。

可能性はある。けれどそれは容易には起こらない。

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