アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)


雪は夜がふけるとさらにひどくなった。

温暖化の影響か、12月に雪が降ることは珍しくなったというのに、今夜はどうしたことか。
遅い夕食を作っていると、店の裏から猫の鳴き声がかすかに聞こえた気がした。


「虎徹(こてつ)?」


この商店街には虎徹と呼ばれる大きな猫が住み着いている。
虎徹は大柄で黒く、少しも愛想のない猫だけれど、この商店街では可愛がられている。
虎徹はこのあたりの猫のボスなので、よそから猫が入ってくると必ずといっていいほど喧嘩になり生傷をこしらえる。

かわいげのない虎徹が鳴いて人間の家に入りたがるのは決まってそんなときだ。


「まったく、あんたまた喧嘩したの、」


私は部屋着の上にコートを羽織って店の勝手口をあけた。
勝手口の脇には店で出たごみを捨てる大きなポリバケツが置いてあり、虎徹はその上に座って私の姿を見るなりポリバケツから飛び降りて店の中に入ってきた。全くずうずうしい猫だ。


「虎徹、家にあがるなら足を拭いて」


人間相手だと無口になってしまう私だけれど、虎徹に対してはそうでもない。虎徹はするりと私の足元をすり抜けて暖かい店の中に入ってきた。

虎徹を追いかけて店に戻ろうとしたその時、ドアの隙間からのびる黄色い光の隅で、何かが動いた気がした。
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