もしも、もしも、ね。
「暁里は全部分かってるんだよ。」
上から降ってくる望果の声は優しかった。
すべてを包み込むような、
それでいて私をなだめるような、
そんな声が柔らかく私の鼓膜を震わす。
「暁里は、全部わかってるの。」
「―――・・・あぁ、ごめん。」
同じ事を繰り返した望果の声の優しさこそ変わらなかったものの、芯の強さが垣間見えた。
望果の声にか、
私の様子にか、
わからないけれど。
謝罪を音にした准君の声にはもう、
鋭さも力強さも、ましてや私を責める気も、すべてが消えていた。
頬を伝う雫の感触がゆっくりと体に戻って来る。
これは涙。
私は、スローモーションのような動きで手で顔を覆った。
成分は100%“ごめんなさい”。
ごめん。
ごめんなさい。
ごめんね、ユウ。
貴方を嫌いなことも、
嘘つきな彼女であることも、
貴方を傷つけていいことにはならないのに。
今となっては言い訳にもならないかも知れないけど。
私、ユウを傷つけたいわけじゃなかった。
嫌いなままで、
お互い何も干渉しない距離で、
付き合ったフリをして、
こんなものただの一過性のものだから、
何も変わらずそのまま元に戻るだけのはずだったの。
「暁里。」
柔らかく振ってきた声の主は望果。
「―――もう話してくれるよね?」
有無を言わせぬ意味がそこには込められていて。
そして同時に、この言い方から、
私とユウの関係が“偽物”だと感づいていたことを、
悟った。
望果には敵わない。
ずっと嘘をついてきた私。
こんなときだけ調子いいよね。
でも、ごめん。ごめんね。
「望果ッ・・・!!」
縋らせて。
へたり込む私の視線の高さに合わせてしゃがんでくれていた望果の首に思い切り抱きついて、
私は、
大きな声を上げて、
子供のように、
暖かい望果の腕に抱かれて、泣いた。